NPO法人きみたす

協働先も仲間も大切に。半径5メートルの人たちを満たす「きみたす」の在り方


NPO法人きみたす(以下:きみたす)では、非営利団体に所属する人たちがやりがいを失わず、活動を続けていくために、各団体の困りごとに合わせたオーダーメイドの応援を行っています。

運営メンバーの橋田さん、二河(にこう)さん、青山さんの3人に、きみたすを始めたきっかけや活動にかける想いを伺いました(写真左から、青山さん、橋田さん、二河さん)。


やりたいことや仲間は後からついてくる

―――きみたすを始めたきっかけを教えてください。

橋田)私は以前、知人の選挙のお手伝いをしたことがあるんです。その方は、後ろ盾もない中で会社を辞めて、区議会議員に立候補していて。すごいなと思ったのと同時に、なにか自分たちも社会にできることがあるんじゃないかと考え始めるようになったんです。

大きな社会課題を解決することを目指すのではなくて、まずはNPOを作ってみると、そこからやりたいことが生まれるかもしれないし、仲間も集まってくるかもしれない。そう考えて、当時働いていたNPOの同僚に自分の構想を話してみたところ、意外とみんな「いいね!」という反応だったんですよね。

その時、賛同してくれた同僚たちと一緒に、2020年4月に法人を立ち上げました。

青山)私も橋田さんに声をかけられた一人です。正直、なにがなんだかわからなかったけれど、私自身、乗っかりたいタイプだから、「やるやる!」と二つ返事でした(笑)

―――二河さんも橋田さんのパワーに巻き込まれたんですか?

二河)巻き込まれたというよりは、巻き込まれに行った感じです(笑)元々、NPOでシステム担当をしていたことがあったので、「システム担当をやるわ!」と自分から名乗り出ましたね。だって、自分たちで団体を立ち上げるなんて、面白いじゃないですか!

実際に始めてみると、初年度は「助成金が取れちゃったけど、どうする!?」とか、「一期終わってみたら、黒字なんだけど!!」とか、てんやわんやの状態でした(笑)

まずは会いに行くことから。直接会って熱意を伝える

―――きみたすでは、どのような活動をされているのですか?

橋田)主にNPOなどの非営利団体を支える活動をしていて。相談される内容は、①仕組みが整っていない②運営費に余裕がない③人が採用できないの3つが多いですね。特にITを活用した業務改善は、メンバーの二河さんが得意としています。

団体の規模が大きくなってくると、問題が複雑になってくるので、小さい団体さんのほうが相性がいいとは思います。

二河)これまで協働してきた法人は、大きくても、スタッフ数が30人くらいのところが多いです。

法人の立ち上げ前や立ち上げて間もない段階からの壁打ちも可能ですね。今まで約40団体と協働してきているので、その中で見聞きした経験をもとに、いろいろとお話していけると思います。

二河)例えば、きみたすでは、多機能型デイサービス事業を行っている団体さんの運営サポートとして、事業運営の壁打ちや、業務改善の提案を行っているんです。

その法人は、茨城と栃木に事務所があって、私は毎月必ず出張するように心がけてるんですよ。頼まれているわけじゃないんですけど、直接会いに行ったほうが熱が伝わると思って。1回行ったら、大体5〜6時間滞在していますね。

この前、事務所に行ったら、パソコンが山積みにされていて。「このパソコンどうしたんですか?」と尋ねると、「パソコンをもらったので、スタッフに使ってもらいたいんですけど、セットアップできる人がいなくて・・・」と相談されたんですよ。

私は以前NPOのシステム担当だったこともあって、つい血が騒いじゃって。勢いで全部セットアップして帰りましたね(笑)セットアップが終わった時、スタッフの方はもう誰もいませんでしたが(笑)

―――それくらい信頼されているんですね。



お金よりも、協働団体を最優先することが、信頼につながる

橋田)実は、きみたすの財政状況に余裕がない時期に、二河さんに「毎月茨城まで行っているけど、交通費もかかるし、委託料の範囲でお仕事しなくて大丈夫?」って声をかけたこともあるんですよ。

二河)私は、「いや、これでいい!」と即答して。私は現地に行きたいし、行く必要があるから行くだけで、団体の財政状況は二の次だと思っていて。もし赤字になるのなら、私が自腹でお金を出そうと思っていました(笑)お金以上に、協働団体と自分のやりたいことを大切にしたいんですよね。

橋田)二河さんがずっとそう言い続けるから、私も、協働している団体に必要なことや自分のやりたいことを、お金よりも優先していいんだと思うようになってきて。

橋田)協働している団体に必要なことを最優先で考えて、楽しみながら動いていると、団体さんがすごく信用してくれるんですよね。今、きみたすは5期目なのですが、依頼を継続してくださる団体さんも多くて。今年はほとんど収入がなかったけれど、来年は助成金が入ったから、依頼を継続したいと言ってくださる団体さんもあるんです。

だからこそ、最初から「お金をいただけないなら、仕事を受けません」と言ってしまうと、何も始まらないと思っています。

二河)ボランティアで出会った人が、将来的にきみたすとご縁があるかもしれないし、お金にならなくても人と会うことは大切にしていますね。

橋田)単に仕事を得ていくのではなくて、心から一緒に仕事をしたいと思える人たちの応援ができるとすごく嬉しいんですよね。



仕事を通じた出会いが、人生の彩りをつくる

青山)私もきみたすを通じて、新たなつながりが生まれていて。

以前、きみたすでは、高齢者と子どもたちをかけ合わせたスマートフォン教室の運営を行っていたことがあります。その時、町内会の役員の方が現場を見に来てくれていて。私たちのことを信頼してくれて、今後もきみたすにスマートフォン教室を任せたいと言ってくれたんです。

今では、私自身も、町内会の健康福祉部会の副部長をさせていただけることになって。ボランティアにはなるんですけど、夏祭りの出店手伝いや敬老会を運営するなかで、地域の民生委員さんや、面白い人たちとつながれるようになってきて。きみたすを通じて出会ったことがきっかけで、暮らしが充実しているな、と感じています。



落穂拾いのように、サポーター役を引き受ける

橋田)メンバーからは、きみたすの活動は「落穂拾い(おちぼひろい)」みたいだよね、と言われていて。

※落穂拾い・・・刈り取りの終わった畑に落ちている糧を一粒一粒拾っていく作業のこと

落穂拾いの「残ったものを拾う」感じが、わかりやすい成果を求めるのではなくて、サポーター役を引き受けることに通じるなという話になったんです。

青山)「きみたす」という法人名にも、半径5メートルの隣の人を満たしていこうという思いが込もっているんですよね。

―――法人名の由来も、サポーターとして非営利団体と協働する姿勢と通じるものがありますね。

全国を飛び回り、楽しみながら、地方のNPOを支える

―――二河さんは、全国を飛び回っていると聞いたのですが、フットワーク軽く活動されている理由はありますか?

二河)理由ですか?行きたいからです(笑)

私は元々首都圏のNPOに所属していたのですが、実は日本全国で6万弱NPOがあるんですよ。その中で5年続くNPOは全体の3割以下で、立ち上がっては消えたり、休眠したりという状態が続いています。

すべてボランティアで運営している団体もありますが、最初のうちはうまく回っていても、継続的に活動をしていく中で、何かがこじれてしまったり、負荷のしわ寄せが行ってしまったりする団体も多く、おそらく首都圏以外のNPOのほうが、よりその傾向が顕著に現れていると思っています。

だからこそ、地方の団体こそ、支えていく必要性があると思っているんですよね。

あとは、純粋に、行ったことがない地域に行くこと自体が刺激になって面白いですね。私は今40代なのですが、40代のうちに47都道府県に仕事で行くという目標を立てています。

自分自身も楽しみながら、全国各地に赴いているので、問い合わせを見たときに、まずどの地域かで一回盛り上がりますね(笑)

団体運営のサポートにとどまらず、個人に光を当てたい

―――きみたすを運営するなかで、心がけていることはありますか?

二河)私は、どんな話題が振られても、回答できるようにはしていますね。最初は、大体が団体の運営面の相談が中心で、バックオフィスの困りごとを聞く機会も多いです。

いろいろな困りごとを聞いているうちに、スタッフの方から「実はこんなことがやりたいんです」と話してくれるようになるんですよ。そうすると、「これは来たぞ!」とテンションが上がりますね(笑)

私は個人事業主の活動のなかで、「壁打ちにこさん(※にこさんは二河さんのニックネーム)」という、やりたいことがある人の背中を押す取り組みをしているくらい、人を応援するのが大好きなんです。

業務改善の相談から入ったはずなのに、話し込んでいくうちに、個人の思いや夢の話を聞けた瞬間が本当に嬉しくてたまらないですね。そのため、雑談はすごく大切にしています。

私はワークライフバランスなども体系的に学んできているのですが、大体その組織をどのように運営していくかの話が中心で。でも、正直、組織は個の集まりだと思っているんですよ。個人のモチベーションが上がることなくして、組織は成り立たないと思っています。だからこそ、訪問した先で個人にも光を当てていくことを大切にしていますね。



きみたすはメンバーが自己実現できるコミュニティ

橋田)きみたすでは、参加しているメンバー個人にも光を当てていますよね。

私は、団体さんに寄り添うことに加えて、きみたすのメンバーがやりたいことを実現できることも大切にしています。きみたすの活動って、非営利団体を支えることと、やりたいことを実現できるコミュニティとして存在することの二軸があると思っているんです。

まずはメンバーがやりたいことをやってみて、そこから何か発展することを大切にしています。だからこそ、しんどいだけでやりたくないことは、やらないようにしています。

助成金を取るときも、本当にやりたいかどうかを自問自答するようにしていて。「お金がほしいだけだったら、きっとしんどくなるよ」といつもメンバーに声をかけています。



喜びや悲しみを分かち合える、安心安全な関係性

二河)私もきみたすのメンバーがやりたいと手をあげた企画を、全力で応援することを大切にしていますね。

この前、青山さんが助成金を取ったことがあって。誰に指示されたわけでもなく、自分がやりたいからチャレンジして、その結果、やりたいことが実現できる。その様子をはたから見ているだけで、これを褒めずして、なにを褒めるんだと思うくらいに、めちゃくちゃ嬉しいんです。

青山)みんな、いつもこうやって褒めてくれたり、背中を押してくれたりするんです。

きみたすのメンバーは、嬉しかったことや、ちょっとしんどいことも分かち合える関係性なんですよね。嬉しい時はおめでとうと言ってくれるし、しんどい時は寄り添いながらも今後どうするか尋ねてくれる。苦楽を面白がれる間柄に救われてきました。

きみたすで活動を始めた時期は、ライフステージがいろいろと変わっていった時期でもあったので、メンバーがいてくれるだけで、守られている感がありました。



成果よりも、一歩踏み出すチャレンジを大切に

橋田)私は、成果はどちらでもいいと思っていて。成果を追い求めた結果、自分のやりたいことではなかったり、周囲をコントロールしないといけなくなったりするのは違うと思うんですよ。

私は、きみたすのメンバーがなにかチャレンジしている時に、口出ししないようにしています。その人がいいと思ってやっているんだから、それがうまくいかなくたっていいというか。まずは取り組んでみることが大切ですしね。

二河)やってみないとわからないこともあると思うんです。チャレンジを始める前に、心変わりしてやめたというのも、本人なりの理由があるはずなので、そこで無理をしてもなと。もう一度やりたいことを見つめ直して、方向転換したほうが建設的ですしね。

私はNPOに所属していた頃、ガンガン副業をやっていたんですよ。でも、それって、ある意味、突き抜けているんですよね。個人事業主や副業に興味はあるけれど、仕事にできるかわからないという人もたくさんいると思うんです。

そんな人たちに対して、きみたすというチャレンジを歓迎する場があって、団体の資金を元手に活動を始められるとしたら、きっと一歩踏み出せると思うんです。

団体の趣旨にあった活動で、自分がやりたいことを実現する場として、きみたすを使ってもらいたい気持ちがあるんですよ。誰かの意思決定を取りに行くのではなくて、自分で決めて、自分で動いてみられる環境を用意したいと思っています。

橋田)大きな組織の中だと、自然と役割分担ができてきて、自分の役割をまっとうすることが大切になりますよね。そうすると、やらないといけないことも出てきてしまう難しさがあると感じています。その代わり、毎月、給与が入ってきて、守られた環境で活躍できるともいえる。

きみたすは、小さな法人で、個人事業主や副業をしているスタッフが集まっていて、社会保険などがあるわけではない環境下のため、やりたくないこともやらないといけない状態にはしたくないなと思ったんです。

NPOを作ると、もっと事業を大きくして、仲間を増やさないといけないとなりがちですが、きみたすではそういったものは一切なくて。ルールすらないんですよ(笑)

きみたすでは、関わり方も自由にしていて、入会の条件も特にないんですよ。メンバーみんながいいねと言えば、それでいい。情報を見るだけの人もいるし、事業に本格的に関わる人もいますね。



仲間を第一に考えることが、他NPOへの貢献につながる

青山)ルールがないと言いながらも、元々同じNPOの同僚だったメンバーが多いから、大切にしたいことが共通しているなと思っていて。橋田さんの言う、「チームのみんながよければいい」というような懐の深さがみんなにあるからこそ、のびのびできるんだと思うんです。

みんなが一人ひとりを大切にしていて、お互いをリスペクトしているからこそ、それは違うんじゃない?と必要なタイミングで言え合える。そういう風土がありがたいです。

プライベートや仕事でなにかあっても、きみたすでは、私が私でいていい感じがします。そういった文化をみんなで作ってきたし、そうありたい人たちが集まってきているなと感じています。

橋田)そういう人しか声をかけてないの(笑)きみたすには、偉そうに言う人が誰一人いないんですよ。基本的に、私の好きな人だけを集めた優しい世界なんだよね。

きみたすって、事業ありきで立ち上げていないんですよね。チームありきで立ち上げているから、まずは仲間のことを第一に考えたいんです。

仲間を第一に考えることで、みんなのモチベーションが上がって、パフォーマンスも上がる。その結果、自分たち以外の人への貢献につながると思うんです。だから、まずは土台を整えたい気持ちがあって。

今のきみたすって、穏やかで優しいチームなんですよね。こういったチームの雰囲気を社会に波及させていきたい。それに加えて、利益は助成金やボランティア頼みではなく、自分たちで積み上げていくことも大切にしたい。

このままでいいやと思うのではなくて、自分たちが率先して変わり続け、ほかの団体さんにも伝えていきたい気持ちはありますね。

―――優しくてあたたかいチームだからこそ、非営利団体を支える時に心から寄り添っていけるんだなあと感じました。

NPOで積み上げた知見を、半径5メートルの人たちにも伝えていく

―――同じNPOの出身者が多いとのことですが、なにかきみたすの活動に生かしていることはありますか?

橋田)これまでのお仕事で出会った人とのつながりを生かして仕事をしているなと感じています。特にNPO時代の仲間たちは、基本的な価値観が合う人が多いんです。みんな社会に貢献したいとか、誰かの役に立ちたいとか、そういった想いが根底にある人が多くて。なにかあったら、相談しようと思える人が多いんです。

私たちがかつて所属していたNPOは、人生の先輩のような団体で、私たち自身が育ててもらったんですよね。卒業してからもそのNPOと関わることで、私たちの視野が広がったり、仕事が発展したりすると感じています。仕事を通じて知り合った団体さんと、きみたすで一緒にお仕事できる機会が生まれることもあります。

青山)私は、そのNPOに15年勤めていて、最近卒業したんです。ここまで育ててもらってきたことは本当に財産だなと感じています。15年分、何かしら成長しているわけで、それらを活かして、きみたすで何ができるかなと妄想しています。

橋田)私たち、NPO時代にたくさん育ててもらって、できることも本当に増えたよね。

二河)大きなNPOでは、自分たちがロールモデルとなり、みんなに真似してもらうことが多いと思うのですが、自ら伝えていく役割の人も必要だと思っていて。自分たちがNPOの中で積み上げてきた知見を、半径5メートルの人たちに伝えていくことも、きみたすの役割だと感じています。

やりたいことがある人の力になりたい

―――今後、きみたすを通して、どのような方を応援していきたいですか?

青山)私は、NPOを退職して、今後のキャリアを考えていて。いろんな企業さんのホームページを見ているんですけど、地域貢献や子どもたちに還元するというメッセージを書いているところも多いんですよね。そういった企業と協働したり、取り組みを実現するための伴走支援をしたりできるといいなと思っています。

橋田)私は、キャリアコンサルタントとして、企業内研修も実施しているのですが、上場企業の管理職のマネジメント研修もしているんです。その中で感じるのは、大きな企業の中で働いていて、社内でストレスを感じている人たちを、企業の中に閉じ込めるのではなく、もっと地域に引っ張り出してあげたいということですね。

大きな法人の中にいると、これまでの経験が活かしづらかったり、守る仕事が増えてきちゃったりするんですよね。でも、一歩外に出ると、できることもたくさんあると思うんです。

二河)組織に所属することで安定はするけれど、モヤモヤを抱えたり、バーンアウトしちゃったりするのは、持続可能ではないと思うんですよ。

健康を害する状況になっているから、今は頑張らなくていいんだよとか、やりたいことをやってリフレッシュしようよとか、あなたの人生は今いる世界だけじゃないんだよと伝えたい気持ちはあります。

自分の中でやりたいと思っていることがあるけれど、なかなか実現できなくてモヤモヤしている人がいたら、お話を聞きたいですね。

やりたいことがある人に、きみたすをうまく使ってもらいたいです。自分のためにやりたいことが8、9割を占めていて、残り1、2割が誰かのための活動という形でも全然いい。

「きみたすが楽しそう」とか、「きみたすで活動する人が好き」だと思ってもらえる人は、老若男女問わず、仲間の一員として歓迎したいですね。

―――仲間を大切にしているからこそ、協働先も大切にしていけるのだということが伝わってきた時間でした。今日はありがとうございました。


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